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ホテル志戸平 -続編
子どものころから、
「おまえは“寸鉄人を刺す”から気を付けろよ」
と言われていた。
そのころはピンと来なかったけれど、さすがに近頃は
「なるほどぉ・・・・・、こういう事かぁ」
と思うことが多い。

私の場合、「五寸釘」で打ち込んでいるかもしれない・・・・・・。

*前回の話はこちら

d0046294_22543081.jpg母がくれた一万円を握りしめて、いや、財布の中に入れて、私はフロントに走った。
もう一人の私が
(どう、どう・・・・・)
と、馬をなだめるように声をかける。
(そうだよ、冷静に、冷静に・・・・・)

フロントの前に着く。 ドキドキしている。走ってきたドキドキではない。 
これから抗議をしようとしているドキドキだ。
前の客の用件が済んで空いた。
私はわざと、ゆっくりと、ロウギアに入れた動作で、一歩二歩とフロントに近づいた。


「先ほど部屋の方から電話をしたものですが・・・・・」
と第一声は穏やかだった、と思う。

「やはり、部屋を換えていただこうと思います。 私は東京の方から日程をやりくりして里帰りしたので、何もホテルに来なくても良かったのですが、両親が“私の誕生日に”とプレゼントで連れてきてくれたんですね。・・・・・・予約の時も、部屋の希望を聞かれなかったといいますし、両親があまりに楽しみにしていたので、ちょっとあの部屋では納得できないんです。・・・・・・上のランクの差額分は私がお支払い致しますので(と言いながら財布から、母の一万円を出してフロントの上に置く)、良い部屋に換えてもらいたいと思います。母は二度と来ないと申しますし・・・・・、私も両親の家の方がよっぽど眺めが良いので、タイトなスケジュールをやりくりしてせっかく来た甲斐がこれでは無い、と・・・・・・。」

てな具合で、一気に言葉を並べ立てた。
大体私は怒っていると、黙って去るか早口でたたみ込むかどちらかになる。
最近は大人になって(?)というよりも、話すエネルギーと時間がもったいないので大方黙る。
でもこの時は、「言わなければならない」ので、自然早口になってうむを言わせぬ口調になる。

同時に、部屋にあったアンケート用紙の表裏に、ビッシリとクレームと要望を書いたものを渡した。
まったくもって嫌な客である。(^^;)

若いフロントボーイの“平静を装った動揺”は、手に取るように分かった。
すぐさま奥に引っ込むと、代わって別の男性が現れた。
見るからに「ワンランク上」の上司らしき雰囲気をかもし出している。
見た目もそこそこいいし、お品も良さそうだ・・・・・・。 この時点で私の怒りが弱まる。

男性が美女に弱いのは定説だが、女だって「いい男」には寛容なのである。


「先ほど、失礼と思いましたがお電話をさせていただきました」
それでも慇懃無礼なほどの丁寧さで切り出し、要点をかいつまんで部屋替えを申し出る。
すると、あっけないほどスムーズに
「別のお部屋をご用意させていただきましたので、こちらへ・・・・・」
と、その男性はフロントの外に出てきて歩き出した。
どうもそのつもりで彼が前線に出てきたようだった。
そして、落ち着いて見える彼にも多少の動揺を感じた私は、ちょっと可哀想になった。

「あの・・・・、部屋のカギは? お持ちになってますか?」
と私は声をかけた。 奥から部屋のカギを持ってきたかもしれないと思ったが、念のため。
すると、
「あっ!」
と両手でポケットの辺を抑え、慌ててカギを取りに奥に戻った。
多少の動揺ではなく、かなり動揺していたようだ・・・・・・。


私はいい加減な奴には、
「許せない!」
と徹底的に怒りをぶつけるか無視をするが、
真摯な態度で応対されると、とたんに同情を感じてしまう。
(切り替えも早いのである)

増築のために4つの建物からなるホテルは、とにかく広い。
しかも、最初の部屋は一番古い建物の3階で、新しい部屋は別棟の6階だから、迷路かと思うほどにエレベーターを乗り降りして、長い廊下を歩く。
案内をしてくれる男性と、
「長い道中無言でいるのも気まずい・・・・・・」
と思う間もなく、さすがにサービス業で訓練されている彼は、お詫びから始まり、私の意見に同意を示し、ホテルの増築経緯などを話してくれた。
そうなると、こっちも
「ほんとに、こちらも言いたいことを申し上げてすみません」
てなことになる。
すると、
「いや、確かに仰るとおりですから、こういう事はどんどん言っていただいた方が、ホテルのためにも有り難いです」
なんていうやりとりになる。
その頃には、お互いにうち解けた。


新しい部屋にまず案内されて、窓を開けると下には川の渓流が見える。
「ほんとは川の中程が見下ろせるお部屋を用意したかったのですが、本日は満室でして・・・・・・。
ここからですと、ちょっと川の端っこの景色になってしまうのですが・・・・・・」
と、私の様子をうかがう。
「もう、ここなら充分です。素晴らしい部屋で、両親もきっと喜びます。ありがとうございます!」
と頭を下げると、彼もホッとしたようだった。
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その後、再び迷路を通って(?)最初の部屋に戻った。
母が待っていた。
「お母さん、すごくいい部屋に替えてもらったから!」
と言いながら、主任の彼に紹介すると
「ああ、ありがとうございます」
と言うそばから、
「ほんとに、この部屋でねぇ・・・・・。家の方がずっと景色がいいと思って・・・・・」
と、すっかりオバチャンの井戸端会議風おしゃべりが始まる。
(もういいから。 私が充分言っといたよぉ・・・・・)

「でね、これから部屋を移るんだけど、お父さんの荷物どうする?」
私は早々に質問して母のオシャベリを切り上げる。

ホテルの方と三人で相談した結果、貴重品のカギは父が持っているので、それ以外の荷物は私と母で持ち運ぶことにした。
そして、父がフロントに部屋のカギを取りに行ったら、新しい部屋に移った旨を伝えてもらうことにした。

このホテルの男性、とっても良い方で(笑)、エレベーターの前で
「ここでお父様をお待ちしてご案内致します」
と言う。
「そ~んな! いいです、いいです、きっと長風呂で遅いですから。 フロントに伺ったらよろしくお願いいたします」
と私はお断りしたのだが、それにしても・・・・・・・。
父の顔を知らない彼が、どうやって父を待つつもりだったのだろう・・・・・・?(笑)

d0046294_22522168.jpg新しい部屋に入って母の驚喜は、案内してくれたフロントの方も見ていて嬉しかったに違いない。
「うわぁ~!・・・・・・」
子どものように天真爛漫な喜びようである。

部屋に入ると、左手に小さな寝室がありベッドが二つ並んでいた。
ジェットマッサージ付きの内風呂があり、しかも渓流が見える!
メインの和室は12畳だったろうか。 床の間も立派である。
そして一間弱ほどの板の間があり、そこに椅子とテーブルが置かれている。

発見!
部屋に用意されていたお茶セットの和菓子が違う!(ワンランク上だよ、きっと)
浴衣も各棟ごとに色が違うから、浴衣の色で泊まっている部屋のランクが分かるってわけだ。
(もっとも、これは常連じゃないと分からないことだけど)

新しい部屋に連行されてきた父は、
「余計なことをして」
と怒るかと思いきや、ビールを飲んでいたせいかご機嫌で、事の成りゆきを母が説明すると
「おまえが言ったから、部屋が替わったのか」
「うん」
それだけで終わった。
(あら~! 何も言わないわ!?)


父は最初の部屋の浴衣を着ていたので、私と母は着替えるように何度も説得した。
しかし、父は
「いいよ、俺はこれで」
と一向に応じてくれず、とうとう夕食にもそのまま降りていった。



夕食はバイキングである。
「ほら、お父さんだけ違う色の浴衣だよ。
(他人が噂しているように演じながら) なーんで家族であの人だけ、あの色なのぉ?」
と私は母に耳打ちすると、
「まったく・・・・・・」
と、母は父に諦めムードの苦笑。

しかし食事が始まると、有料のアルコールをバンバン頼み、好きな料理を運びながら楽しい時間を過ごした。
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母は、ソフトクリーム、雪見だいふく2個、果物などをせっせと運んできた。

「お客さん、デザートから召し上がるんですか?」と私。
「おっまえ、バッカだなぁ~」と呆れる父。
「いいんだよねぇ、好きなものを食べるのがバイキングなんだから。どんどん食べて!」と私。
しかし、しばらくすると
「これ、食べな」
と私に雪見だいふくが1個残っているお皿を差し出す。
「へ? 雪見酒っていうのはあるけど、酒に雪見だいふくってぇのもねぇ・・・・・・。(笑)
自分で持って来たんだから、ちゃんと食べなさいよね」と私。
「おまえ、なんで2個も持って来たんだ? ソフトクリームまで持ってきてんのに・・・・」と父。
「ん・・・・・(と指でつつきながら)、前の人が2個取ってたからさぁ・・・・・。お母さんもつい2個取っちゃったんだよ」
「全然、わっけが分かんない」
と私が言うと、母の横で父は本気でガッカリと首を傾げる。
私にはこういう天然ボケの母が面白いし、マジな父とのやりとりが滑稽である。


結局、「雨降って地固まる」ではないけれど、非常に楽しい一泊になったと言える。



翌日、クックを連れて、新花巻駅近くの宮沢賢治記念館周辺をみんなで散歩し、
私はそのまま新幹線にて帰宅。

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実は、後日談があるのだ。
帰宅後、私はHPで志戸平ホテルのページを開き、今回の件についてメールを出した。
新しい部屋に替えていただいた際の、ホテルの方の対応に感謝いたします、という内容だった。
もちろん今後の要望も書き添えたけれど。
翌日、速攻でフロントマネージャーから返信が来た。
ありきたりの返信ではなく、きちんと丁寧な長文のメールだった。

「活字は心が通じない」という人もいるが、私はそうは思わない。
その時に打ち込んだその人の心情やその人の思考が、行間から漂ってくる。

これによって、
「もう二度と来ない!」
と言っていた母も、
「来年もさぁ、また一緒に行こうってお父さんと話したんだぁ♪」
てなことになるわけです。


 ホテル志戸平は、いいですよぉ♪ (笑)

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by anrianan | 2006-11-22 16:30 | ■とりあえず日記
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